特定技能とは?制度の基本概要
特定技能制度は、深刻な労働力不足に直面する日本の各産業で、外国人材を確保するために導入された在留資格制度です。この制度により、一定の技能と日本語能力を有する外国人が「特定技能」在留資格を取得し、日本国内で働くことが可能になります。特定技能制度の詳細や資格区分の違い、他の在留資格との比較についても詳しく見ていきましょう。
特定技能の定義と目的
特定技能制度は、即戦力として働く外国人に在留資格を付与し、労働力不足が深刻な日本の14分野での人材確保を目的としています。この制度によって、一定の知識・技能を有する外国人材が対象分野で活躍できるようになり、企業側も安心して労働力を確保できる仕組みが整いました。
制度導入の背景には、日本国内の労働市場における慢性的な人手不足があります。例えば、介護や建設、製造業といった分野では、担い手が不足していることが長年の課題となっていました。即戦力となる外国人労働者を積極的に受け入れることで、これらの課題に対応し、経済の持続的な成長を支えることを目的としています。
特定技能1号と2号の違い
特定技能には「1号」と「2号」の2つの区分があり、業務内容や在留期間、転職の可否などが異なります。
特定技能1号の特徴
特定技能1号は介護や建設、飲食料品製造、宿泊など14分野で働くための在留資格で、基本的な業務スキルと日本語能力が必要です。
- 対象分野:介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14分野。
- 技能・日本語能力:基本的な技能試験と日本語能力試験の合格が必要です。
特定技能2号の特徴
一方、特定技能2号は、1号のさらに上位に位置付けられる資格で、対象となる分野が少ないのが特徴です。
- 対象分野:特に高度な専門技能が必要な建設と造船・舶用工業に限られていますが、今後他分野への拡大も期待されています。
- 長期滞在と転職の可能性:特定技能2号は在留期間の更新が無制限で可能で、家族の帯同も許可されています。分野内での転職も認められるため、スキルアップやキャリア形成がしやすいです。
参照元:法務省「特定技能ガイドブック」【PDF】(https://www.moj.go.jp/content/001326468.pdf)
特定技能と他の在留資格(技能実習など)の比較
特定技能制度と技能実習制度は、共に外国人を受け入れるための制度ですが、その目的や対象者には大きな違いがあります。
- 制度の目的と対象者の違い
技能実習制度は、母国で学んだ技術や知識をもとに日本で実務を学び、母国の発展に貢献することを目的としています。一方、特定技能は、日本の人手不足に対応するために即戦力となる人材を受け入れるものです。 - 移行条件とその手順
技能実習生が実習期間を終えて特定技能1号に移行するケースが増えています。特定技能への移行には、一定の技能試験と日本語能力試験の合格が必要であるものの、技能実習で経験を積んだ人材は移行しやすく、企業側も即戦力として活用できます。
特定技能外国人を採用するメリット
特定技能外国人の採用には、日本企業が抱える課題を解決する多くのメリットがあります。以下で主なメリットについて詳しく解説します。
労働力不足の解消
特定技能外国人の採用により、労働力不足の解消につながる事例が増えています。日本国内では、多くの産業で若年層の働き手が不足しており、特に建設業、農業、宿泊業といった分野で外国人材が重要な労働力として活躍しています。
さらに、長期的な雇用の安定により、企業は安心して事業拡大やサービスの向上に注力できるようになります。
参照元:マイナビグローバル(https://global-saponet.mgl.mynavi.jp/know-how/13131)
多様なスキルと専門知識の導入
特定技能外国人の受け入れにより、各産業で専門的な技能や知識を持つ外国人が増加しています。これに伴い、企業の技術レベルやサービス品質の向上が期待され、競争力の強化にもつながっています。
例えば、製造業や情報技術分野では、新しいアイデアや技術の導入によって、イノベーションが促されるでしょう。
国際化とグローバル展開の促進
外国人材の受け入れは、企業の国際化を促進する重要な手段の一つです。多国籍な人材が増えることで、海外市場や国際的なビジネスチャンスに取り組みやすくなり、これが大きな利点といえます。
特に、日本から海外市場への進出を検討している企業にとって、外国人労働者の存在は大きな支援となり、マーケット拡大への貢献が期待されます。
助成金や支援制度の活用
特定技能外国人の採用にあたり、日本政府は複数の助成金を提供しており、これにより採用コストの削減が可能です。主な助成金には「人材確保等支援助成金」や「キャリアアップ助成金」があり、職場環境の整備費や正社員化を支援するためのサポートが受けられます。
詳しくは、厚生労働省の公式サイトをご確認ください。
企業イメージの向上
多様性を尊重した企業としてのブランドイメージの向上も、特定技能外国人の採用によって期待できます。
グローバル化が進む現代社会では、多様な人材が活躍できる環境を提供することが企業の成長に繋がり、社会的信用の向上も実現します。
特定技能外国人の採用方法とその手順
特定技能外国人の採用には、募集、選考、契約、ビザ申請などの手続きが必要です。これらのステップを適切に進めることで、企業は人材の安定確保が可能となります。
特定技能外国人の募集方法
特定技能外国人を効果的に採用するためには、的確な募集活動が欠かせません。募集方法として、求人広告の作成や人材紹介会社の活用が一般的です。
効果的な求人広告の作成
特定技能外国人向けの求人広告では、仕事内容や勤務地、労働条件、求めるスキル、日本語レベルなどを具体的かつ分かりやすく記載することが重要です。特に、特定技能ビザが認められる14分野における業務内容や勤務時間、給与、福利厚生を明確に示すことで、求職者に安心感を与え、応募意欲を高める効果が期待されます。
人材紹介会社の選定ポイント
外国人採用に強みを持つ人材紹介会社を活用することで、特定技能外国人を効率的に採用することが可能です。選定の際には、業界経験が豊富で、外国人労働者の在留資格やビザ申請に関する専門知識を持つ会社を選ぶことが重要です。また、母国での採用活動を視野に入れる場合には、現地でのリクルーティングに強い会社を選ぶことで、より高い効果が期待できます。
選考のステップガイド
外国人労働者の選考では、在留資格の確認や面接での日本語力、業務適応力の評価が求められます。また、必要な資格や試験に合格しているかの確認は、入社後のトラブルを防ぐための重要なポイントです。
まず、応募者が「特定技能」ビザを取得できる条件を満たしているか、または他の在留資格から変更が可能かを確認。技能実習から移行した場合、既に基本的な業務スキルを持っていることが多く、資格変更がスムーズに進むことがあります。
さらに、日本での業務に適応できるかを判断するため、面接では日本語力や業務に必要なスキル、文化的な適応力を確認。加えて、技能試験の合格証など、特定技能として必要な資格の有無もチェックが必要です。これらを徹底することで、入社後のトラブルを未然に防ぐことができます。
雇用契約書の作成と署名
特定技能外国人を採用する際の雇用契約書は、外国人労働者が安心して勤務できるよう、契約内容を正確に伝えることが重要です。まず、労働基準法をはじめとする日本の法令に従い、就業時間、休日、賃金などの基本条件を明記する必要があります。特定技能外国人には、日本人と同等の労働条件が求められるため、契約内容を適切に記載することが欠かせません。
さらに、日本語が苦手な外国人労働者のために、雇用契約書を母国語に翻訳することも推奨されます。多言語対応を行うことで、労働条件に対する誤解を防ぎ、スムーズな入社手続きにつながります。
特定技能ビザの申請手続き
特定技能ビザの申請には、多くの書類と時間が必要であり、企業のサポートが欠かせません。必要な書類には、雇用契約書、業務内容の説明書、外国人労働者のパスポート、技能試験の合格証などが含まれます。申請手続きは出入国在留管理庁で行われ、審査には約1~3ヶ月かかるため、採用スケジュールには十分な余裕を持つことが求められます。
審査後には在留資格認定証明書が発行され、この証明書を基に労働者がビザを取得する流れとなります。
入社前の準備とオリエンテーション
外国人労働者が安心して働き始められるよう、入社前からの生活サポートが重要です。住居や生活用品の準備、銀行口座開設を支援し、日本での生活に馴染めるようサポートします。また、職場の異文化理解を促し、業務手順や安全衛生の初期研修を通じて、安心して業務に取り組める環境を整えることが大切です。
特定技能外国人採用における支援制度と助成金
日本政府は、特定技能外国人の雇用をサポートするために、各種助成金や支援制度を提供しています。
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
人材確保等支援助成金は、外国人労働者を雇用する際に、企業が職場環境の整備や労働条件の向上に取り組む場合に活用できる助成金です。
この助成金では、外国人労働者が働きやすい職場環境を整えるための施設や機材の設置費用が補助されます。具体的には、安全衛生教育の実施や多言語対応のサポートが対象となります。
申請には計画書や見積書の提出が必要で、場合によっては労働基準監督署などの確認を受けることが求められます。また、助成対象の費用が適用範囲に含まれるかを事前に確認しておくことが重要です。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、特定技能外国人を契約社員から正社員へ転換する際に利用できる助成金で、長期的な人材確保に役立つ制度。
特定技能外国人を正社員として雇用する際、この助成金を活用することでコスト削減が期待できます。一方で、契約形態の変更に伴い、就業条件や評価制度の整備が条件となる点に留意が必要です。
申請には一定期間の就業実績が求められ、適切な就業計画の策定と、その計画に基づく進行が重要となります。これらを着実に実行することが成功の鍵です。
人材開発支援助成金(各コース)
人材開発支援助成金(各コース)は、企業内での職業能力開発を目的とした助成金であり、外国人労働者のスキル向上にも活用できる制度。この助成金は、専門技術や職務に必要なスキルを習得させるための研修費用を補助します。特定技能外国人がキャリアアップを目指せるよう、継続的な教育を実施する際に役立つ仕組みです。
対象となるのは、労働者の自己啓発やスキル習得を支援するための休暇制度を導入している企業です。労働者が積極的に学べる環境を整備するための助成制度としても活用されています。
その他の支援制度
日本の企業が特定技能外国人を採用する際に活用できる支援制度は他にもあり、例として以下の2つを紹介します。
- 国際研修協力機構(JITCO)
JITCOは、外国人雇用に関する各種情報提供や相談、外国人労働者への法的支援、日本での生活支援に関する資料提供を実施しています。 - 外国人雇用管理アドバイザー制度
この制度では、アドバイザーが企業を訪問し、雇用管理や労務管理に関する相談や指導を提供します。特に初めて外国人を採用する企業にとって、安心して制度を利用できる効果的なサポート制度です。
参照元:厚生労働省「雇用関係助成金一覧」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00057.html)
特定技能外国人の税金と社会保険
特定技能外国人を雇用する際、所得税や住民税、社会保険の加入手続きが必要です。また、税金や保険料は日本人労働者とほぼ同様の管理が求められます。
特定技能外国人の所得税と住民税
所得税は給与から源泉徴収され、年末調整で過不足が精算されるため、通常、労働者が追加で確定申告を行う必要はありません。ただし、退職や帰国時には確定申告が必要となる場合があります。
一方、住民税は前年の所得に基づき、居住地の自治体に納める税金です。通常、6月から給与天引き(特別徴収)で支払われますが、手続きは自治体ごとに異なります。事前に確認することで、円滑な対応が可能です。
参照元:総務省「個人住民税」(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/149767_03.html)
社会保険の加入と手続き
特定技能外国人が週30時間以上働く場合、健康保険と厚生年金への加入が義務付けられています。これにより、日本人と同様に医療費の補助や年金給付を受けることが可能です。保険料は労働者と雇用者が折半。
さらに、労働保険として、週20時間以上勤務する場合には、失業時の給付が受けられる雇用保険や、業務中の事故を補償する労災保険が適用されます。企業には、保険料の納付手続きを速やかに行う義務があり、労働者が安心して働ける職場環境の整備が求められます。
租税条約の活用と税務管理
日本は多くの国と租税条約を締結しており、特定技能外国人が「二重課税」を回避するための特例措置を受けられる場合があります。租税条約の適用により、滞在期間や業務内容によっては、日本での所得税が免除されるケースもあるため、条件の確認が重要です。
適用を受けるには、税務署での事前申請が必要であり、母国が発行する「居住証明書」などの書類が求められます。企業は、税理士のサポートを活用して正確な税務管理を行うことで、対応をスムーズに進めることができます。
特定技能外国人採用の注意点とリスク管理
法令遵守とコンプライアンスの徹底
特定技能外国人を雇用する企業には、労働基準法や入管法の遵守が求められます。法令違反は企業の信頼を損なうだけでなく、ペナルティの対象となるため、採用時には適切な在留資格の確認と適法な労働条件の提供が不可欠です。
さらに、企業は定期的にコンプライアンス研修を実施し、就業規則や労働条件を外国人労働者に周知することが重要です。これにより、安心して働ける環境の整備が進みます。
コミュニケーションと文化的理解の促進
外国人労働者との良好な関係を築くには、異文化コミュニケーションへの理解が欠かせません。言語や文化の違いから生じる誤解を防ぐためには、シンプルな表現を心掛け、適宜確認を行う工夫が必要です。また、ビジュアルガイドや翻訳ツールを活用することも効果的です。
さらに、定期的に異文化理解プログラムを実施し、互いの文化を紹介し合う場を設けることで、チームの連携を強化。これにより、職場定着率の向上にもつながります。
労働環境の整備と安全衛生管理
外国人労働者を含む全ての従業員にとって、安全で働きやすい環境の整備は不可欠です。言語や文化の違いを考慮し、多言語対応の安全衛生マニュアルや視覚的にわかりやすい標識の設置、さらには定期的な安全教育の実施が効果的です。
また、母国の労働文化の影響で長時間労働になりがちな場合もあるため、企業は労働時間の適切な管理や休憩の確保に努める必要があります。これらの取り組みによって、過労リスクを軽減し、安全で健康的な職場環境の実現が可能になります。
離職時の対応とフォローアップ
外国人労働者が離職する際、雇用主は法的手続きを適切に行い、円滑な退職を支援する責任があります。
退職時には、退職手当の支給や保険の脱退手続きなどが必要です。また、在留資格に関する情報を出入国在留管理庁に通知し、再就職先が決まっている場合には新たな雇用先での在留資格手続きが求められます。
さらに、離職後も関係を維持することで、再度の採用や推薦といった将来的な可能性が広がります。加えて、再就職支援を行うことで、外国人労働者が日本での就労を続けやすくなり、企業の評判向上にも寄与します。
特定技能外国人採用の成功事例
外国人労働者の活用が進む中、特定技能制度を活用して人材定着に成功している企業の事例をご紹介します。
成功企業の取り組み例
東京の洋菓子製造メーカーは、長年の人材不足と定着率向上という課題を解決するため、ベトナム国籍の特定技能労働者10名を新たに採用しました。これにより、技能実習生や留学生アルバイトでは難しかった安定的な製造運営が可能となりました。
同社は、労務管理やサポート体制を外部に委託し、定期的に日本語研修を実施することで、外国人労働者が職場に早期に適応できる環境を整備。また、管理団体の対応に課題を感じていた際、Adeccoとの提携により登録支援機関を変更し、スムーズな対応を実現しました。この結果、迅速な人材追加が可能となり、企業担当者からも高い評価を得ています。
さらに、特定技能労働者が長期的なキャリアを築けるよう、スキルアップ支援や現場実務を通じた成長機会を提供。日本語研修や技術指導により外国人労働者のスキル向上を図り、定着率の向上につなげています。これらの取り組みによって、人材不足の解消と安定した生産体制を実現しており、他企業にとっても効果的な参考事例となるでしょう。
参照元:Adecco公式HP(https://www.adecco.co.jp/client/service/perm/foreigner)
特定技能外国人採用に関するよくある質問(FAQ)
- 特定技能1号と2号の違いは?
- 特定技能1号は、14の特定分野で働くための在留資格で、在留期間は通算5年が上限です。また、家族の帯同は認められていません。特定技能2号は、建設業や造船業での熟練技能を要し、在留期間の更新が無制限で、家族の帯同も認められています。
- 特定技能外国人の採用手続きはどのように行う?
- 採用手続きには、外国人の在留資格確認や雇用契約書の作成、ビザ申請が必要です。採用者の日本語力や業務適応力を評価する面接も行われます。
ビザ申請は出入国在留管理庁に提出し、審査期間を含めると1~3か月を要するため、早めの手続きが推奨されます。
- 特定技能外国人の税務管理はどうすれば良い?
- 特定技能外国人も所得税や住民税の対象です。企業が月々の給与から源泉徴収を行い、年末調整で税額を確定させます。住民税は前年の所得に基づき翌年に納付が必要です。また、租税条約により母国との二重課税を避けられる場合があるため、該当する場合は申請を行います。
- 特定技能外国人の離職時の対応方法は?
- 特定技能外国人が離職する際には、退職手当の支給や社会保険の脱退手続きを行う必要があります。
また、在留資格に関する情報を入管へ通知し、他の雇用先に転職する場合には適切な手続きをサポートします。再就職支援を提供することで、企業の評判向上にもつながります。
特定技能外国人を効果的に採用し、企業の成長を促進
特定技能制度は、日本の労働力不足を補い、即戦力となる外国人材を活用するために設けられた制度。1号と2号の在留資格を使い分けることで、企業は人材確保と長期雇用の両立を図ることが可能です。
採用時には、在留資格の確認や適切な評価基準の設定が不可欠。また、助成金やサポート体制を活用することで、採用コストを削減しつつ、外国人材が安心して働ける環境を整えることができます。これらの取り組みを通じて、企業の持続的な成長が期待されます。