見落としがちな外国人雇用状況届出書とは

グローバル化が進む現代において、外国人材は企業にとって貴重な戦力です。一方で、外国人材を雇用する際に「外国人雇用状況届出書」の提出義務があることはご存知でしょうか? この届出は、ともすれば見落とされがちですが、企業がコンプライアンスを遵守し、健全な事業活動を行う上で非常に重要です。このページでは、外国人雇用状況届出書の制度概要から、提出方法、記載方法なども解説。皆様の疑問を解消します。

外国人雇用状況届出書の定義と目的

外国人雇用状況届出書とは、事業主が外国人労働者を雇用または離職させた際に、ハローワークへ提出することが義務づけられている書類です。この制度の目的は次の通りです。

  • 不法就労の防止:適法に就労可能な在留資格を持つ外国人のみを雇用することを促し、不法就労者の抑制を図ります。
  • 労働環境の改善:適切な労働条件での雇用を確認することで、外国人労働者の権利保護に寄与します。
  • 再就職支援:離職した外国人に対し、再就職の支援体制を整えるための基礎データとなります。
  • 雇用状況の把握:国として外国人労働者の雇用動向を把握することで、今後の政策立案や労働市場の分析に役立てられます。

届出が義務付けられている理由

この制度は、2007年10月の雇用対策法改正により義務化されました(雇用対策法第28条)。これにより、すべての事業主が外国人を雇用・離職させた際に届け出なければならなくなりました。企業がこの届出を通じて果たす責任は次の通りです。

  • 法令順守:外国人労働者の在留資格や就労可否を確認し、法的に問題のない雇用を行う義務があります。
  • 社会的責任:国際的な人材の適正な雇用に貢献し、企業の信頼性を高める行動が求められます。

参照元:厚生労働省「外国人雇用状況の届出制度」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/todokede/

外国人雇用状況届出書の対象者

届出が必要な外国人労働者の種類

届出が必要なのは、原則として雇用保険の適用の有無にかかわらず、外国人で報酬を得て労働するすべての者です。特に次のようなケースが含まれます。

  • 雇用保険被保険者:常勤で働く外国人社員。
  • 派遣社員や派遣アルバイト:派遣元企業が届け出を行う義務を負います。

届出が不要なケース

ただし、次のような外国人については届出が不要とされています。

  • 就労制限のない資格を持つ外国人:「永住者」「日本人の配偶者等」「定住者」など、活動の制限がない者。
  • 特定の在留資格者:外交官や公用での滞在など、公的立場で在留している場合。

詳細な区分については、「在留資格一覧表」をご確認ください。

参照元:出入国在留管理庁「在留資格一覧表」(https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/qaq5.html

外国人雇用状況届出書の提出方法

【提出方法1】ハローワークへの直接提出

必要書類
・外国人雇用状況届出書(所定様式)
・雇用契約書や雇用条件通知書の写し(必要に応じて)

提出手順
・最寄りのハローワークに出向く
・窓口にて書類を提出
・担当者による確認・受理

【提出方法2】外国人雇用状況届出システム(オンライン)

厚生労働省はオンラインによる届出にも対応しています。

利用方法
・GビズID(法人向けID)の取得
・専用システム(届出システム)にログイン
・必要情報の入力
・電子署名および提出

参照元:厚生労働省「外国人雇用状況届出システム」(ttps://gaikokujin.hellowork.mhlw.go.jp/report/001010.do?action=initDisp&screenId=001010

オンラインを利用するメリットとデメリット

  • メリット:移動不要、提出の証跡が残る、入力補助機能あり
  • デメリット:初期登録がやや煩雑、電子証明書の取得が必要

提出期限と遅延のリスク

  • 雇用時:雇い入れた日から10日以内
  • 離職時:離職日から10日以内

遅延した場合の罰則

  • 罰則:雇用対策法に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性あり
  • 企業への影響:監査時に不備として指摘される可能性や、行政指導の対象となることも

外国人雇用状況届出書の記載方法

雇用保険被保険者の場合の記載内容

・基本情報:氏名・生年月日・性別・国籍
・在留資格と在留期間
・雇用形態(正社員、契約社員など)
・就業場所および業務内容

記入ポイント

記入にあたっては、在留カードに記載されている情報と一致しているかを必ず確認する必要があります。特に氏名や在留資格、在留期間の誤記は行政手続き上のトラブルの原因となるため、細心の注意を払いましょう。また、漢字や英数字の入力ミス、見落としによる不備が発生しやすいため、複数人によるチェック体制の構築も効果的です。

雇用保険被保険者でない場合の記載内容


雇用保険に加入していない外国人労働者、特に学生アルバイトや短時間勤務の非正規雇用者に対しても届出義務があります。この場合には、雇用期間の始期・終期、担当業務の内容、週あたりの所定労働時間といった詳細を明確に記載する必要があります。これにより、労働実態の把握が可能となり、不適切な就労を防ぐことにもつながります。

各項目の詳細説明

  • 個人情報の取り扱い:届出書に含まれる氏名、生年月日、在留資格などの情報は機微な個人情報に該当します。プライバシー保護の観点から、不要な情報の記載は避け、必要最小限に留めることが重要です。
  • 雇用形態の記載方法:「常用」「臨時」「派遣」など、実態に即した雇用形態を明記しましょう。特に派遣社員の場合は、派遣元・派遣先の情報や就業場所の特定も不可欠です。

外国人雇用状況届出書提出時の注意点

届出を怠った場合の罰則

外国人雇用状況届出書の提出は法律に基づく義務であり、これを怠ると以下のような罰則が科される可能性があります。

  • 30万円以下の罰金:雇用対策法第38条に基づき、正当な理由なく届出を行わなかった場合に適用される可能性があります。
  • 企業イメージの低下:行政指導や監査を通じて違反が判明すると、社会的信用の低下やコンプライアンス違反として社外に悪影響を与えるリスクがあります。

また、罰則だけでなく、外国人労働者本人にも在留資格更新や転職時に不利益が生じることがあるため、届出の義務を適切に果たすことは企業の責任といえます。

届出時の正確性と虚偽報告のリスク

外国人雇用状況届出書の内容に誤りや虚偽がある場合、以下のような問題が生じる可能性があります。

  • 虚偽報告による法的責任:悪質な虚偽報告が発覚した場合、行政指導や改善命令の対象となることがあり、雇用主としての信頼性を損ないます。
  • 外国人本人のトラブル:在留資格との不整合が発生し、外国人労働者本人にとって不利益となる場合があります(例:在留資格の更新拒否)。

そのため、記載内容は本人の在留カード、雇用契約書、パスポート情報と照合のうえ、正確性を担保する必要があります。

離職時の届出手続き

外国人労働者が退職した際にも届出が必要です。以下の要点を押さえましょう。

  • 届出期限:離職した日から10日以内に届出を行う必要があります。
  • 提出内容:雇用保険の資格喪失届とともに、外国人雇用状況届出書にも離職情報を記載。

離職時も雇入れ時と同様に、オンラインシステムまたはハローワーク窓口での提出が可能です。
早期の届出を怠ると、行政手続き上の混乱が生じるほか、労働者本人の再就職活動にも影響を及ぼすため、正確かつ速やかな対応が求められます。

まとめ

外国人を雇用するすべての事業者にとって義務のひとつ

外国人雇用状況届出書は、日本で外国人を雇用するすべての事業者にとって、法的にも社会的にも非常に重要な義務のひとつです。外国人労働者の適正な就労管理は、不法就労の防止や労働環境の改善、さらには在留資格の維持・更新にも密接に関わっており、企業としての責任ある行動が求められます。

届出の内容には正確性が求められ、記載ミスや虚偽情報は企業の信頼低下や行政処分のリスクを招きます。特に雇用開始・離職時の10日以内の届出期限を守ることは、トラブル防止において不可欠です。

また、届出業務に不安がある場合には、行政書士や外国人雇用管理アドバイザー制度の活用、あるいはオンラインシステムの利用によって、業務の負担を軽減することが可能です。

外国人労働者の雇用は、企業のグローバル展開や人材多様化の面でも重要なテーマとなっています。今後、関連法令の改正やデジタル化の進展にも注視しつつ、継続的な制度理解と対応力の強化が求められるでしょう。