外国人採用の現状と日本語能力の必要性とは
知っておこう!日本における外国人採用のトレンド
外国人労働者が増加する背景とは
少子高齢化と労働人口減少により、日本では多くの企業が外国人採用を進めています。特に製造業やサービス業などでは慢性的な人手不足が続き、外国人労働者の受け入れが増えました。2019年に施行された「特定技能」制度は、即戦力となる外国人材の受け入れを促進し、これにより特定の業種で外国人労働者が増加しています。
業種別・地域別で採用動向は違うのか?
地域別では、東京都や大阪府などの大都市圏での採用が進んでいますが、地方でも外国人労働者を採用している地域も増えてきました。
業種別に見ると、製造業が27.0%と最多で、次いでサービス業(他に分類されないもの)の15.7%、卸売業・小売業の12.9%となっています。
これらの業種で外国人労働者の採用が増えた背景には、特定技能制度の施行が大きく関係しているといえそうです。
参照元(PDF):厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況【概要版】(令和5年 10 月末時点)(https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001195785.pdf)
なぜ外国人労働者に日本語能力が重要なのか
外国人労働者を雇用するにあたって、多くの企業が懸念しているのが「外国人労働者の日本語能力」ではないでしょうか。外国人労働者の日本語能力が重要視される理由を説明します。
信頼関係を構築するコミュニケーションの円滑化
外国人労働者が日本で円滑に業務を遂行するためには、日本語によるコミュニケーションが不可欠です。言語が理解できることで、指示の誤解やトラブルを未然に防げ、職場内での信頼関係の構築にもつながります。
指示の理解で業務効率が向上する
日本語能力が高い労働者は業務の効率も高まります。特に、現場での業務において細かな指示や安全指導が正確に伝わるため、作業効率が向上し、ミスの軽減も期待できます。
チーム内での協力関係が生産性を高める
日本語のコミュニケーション能力が高い外国人労働者は、職場内での関係構築がスムーズで、チーム全体の生産性を高める効果があります。文化的な違いがあっても、言葉が通じれば相互理解が進み、協力関係が築きやすくなります。
なぜ?外国人労働者が日本で働きたい理由
学んだ語学力の活用で
多くの外国人労働者は、日本語を学び、日本でその語学力を活かして働きたいと考えています。特に日本語を勉強してきた人にとっては、日本での就労経験が自身のキャリアにとって価値あるものとなります。
治安と生活環境の良さから
日本は治安が良く、医療制度やインフラも整っているため、外国人にとっても住みやすい環境が整っています。このような社会環境の良さも、日本で働きたいと考える理由の一つです。
技術と知識といった将来への自己投資
日本での就労経験は、帰国後のキャリアにも好影響を与えることが多いです。日本で技術や知識、ビジネスマナーを学ぶことで、将来のキャリアに活かしたいと考える外国人労働者が増えています。
日本語能力の評価方法と試験の選び方
日本語能力試験(JLPT)の概要
JLPTとは何か
日本語能力試験(JLPT)は、日本語を母語としない人向けに、日本語の理解力を測定するための試験です。試験は年2回開催され、N1からN5までの5つのレベルに分かれており、N1が最も難しいレベルです。
試験のレベルと特徴(N1~N5)を知っておこう
- N1…さまざまな場面で使われる日本語を理解できる
- N2…日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、よりさまざまな場面で使われる日本語をある程度理解できる
- N3…日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる
- N4…基本的な日本語を理解できる
- N5…基本的な日本語をある程度理解できる
N5は基礎的な日本語の読み書きができるレベルで、N1は高度なビジネスレベルの日本語が理解できる能力を示します。各レベルには語彙や文法の知識に加え、聴解力や読解力の測定も含まれており、求められる日本語能力に応じた評価が可能です。
参照元:日本語能力試験 JLPT(https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html)
日本語能力試験以外の評価方法はある?
- BJT(ビジネス日本語能力テスト)
BJTはビジネスシーンで求められる日本語のコミュニケーション能力を測るテストで、実務に役立つスキルを評価します。特にビジネスの場で日本語を必要とする職種に適しています。 - J.TEST 実用日本語検定
J.TESTは実用的な日本語能力を測る試験で、日常会話からビジネスシーンまで幅広いレベルに対応しています。実務レベルの日本語が必要な外国人労働者向けの試験です。 - 自社オリジナルの日本語テスト
企業によっては、業務に特化した自社オリジナルの日本語テストを実施する場合もあります。業務内容に直結する日本語能力を確認できるため、業界やポジションに応じた実務評価が可能です。
面接や実務で日本語能力を評価する方法とは
- ビジネス場面でのシミュレーション
面接でビジネスシーンをシミュレーションすることで、仕事で必要な日本語能力を評価できます。例えば、電話応対やメールの受け答えを再現し、即戦力としての日本語能力を確認する方法もいいでしょう。 - 日常会話と専門用語の理解度チェック
日常会話は問題なくても、専門用語を含む会話が難しいケースもあります。業務に関連する専門用語の理解度を確認することで、採用後の適応度を見極めることができます。
日本語能力試験の種類とその特徴とは
JLPT(日本語能力試験)
各レベルの詳細(N1~N5)
- N1…新聞の論説・評論など、論理的でやや複雑な文章や抽象的な文章を読み、構成や内容を理解できる(読む)。
自然なスピードでまとまりある会話・ニュース・講義などを聞いて、話の流れ・内容・登場人物の関係性・論理構成を詳しく理解できる(聞く) - N2…新聞や雑誌の記事・解説、かんたんな評論などあまり難しくない文章を読んで内容を理解できる。また、一般的な話題に関する書物を読んで、話の流れや表現の意図を理解できる(読む)。
日常的な場面をはじめ、さまざまな場面で自然なスピードでまとまりある会話やニュースを聞いて、話の流れ・内容・登場人物の関係性・要点を理解できる(聞く) - N3…日常的な話題が書かれた内容を④で理解できる。また、新聞の見出しから記事の概要をつかめる。日常的によく使われるけど難易度がやや高い文章は、表現を言い換えると要点を理解できる(読む)。
日常的な場面でやや自然に近いスピードでまとまりある会話を聞いて、話の流れ・内容・登場人物の関係性などを理解できる(聞く) - N4…基本的な語彙や漢字で書かれた身近な話題の文章を理解できる(読む)。
日常的な場面で、比較的ゆっくりと話される会話の内容をほぼ理解できる(聞く)。 - N5…ひらがな・カタカナ・日常的に使用される漢字で書かれた定型句・定型文・それ以外の文章を読んで理解できる(読む)。
日常的な場面でゆっくり話される短い会話から必要な情報を聞き取れる(聞く)。
参照元:日本語能力試験 JLPT(https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html)
試験内容と評価基準
試験は「文字・語彙・文法」「読解」「聴解」のセクションで構成されており、各セクションでの点数が合格基準に達すると認定されます。評価基準は点数制で、全体の得点だけでなく、各セクションのバランスも重要です。
BJT(ビジネス日本語能力テスト)
ビジネスシーンにおける日本語能力の評価
BJTは特にビジネスシーンにおける日本語の応用力を測るもので、意思決定や交渉において適切な日本語を使いこなせるかを評価します。就労時にビジネスレベルの日本語が求められる職種で有用です。
試験形式とメリット
試験は筆記とリスニングの2部構成で、ビジネスの現場での会話や情報処理力をチェックできます。試験の結果はTOEICと同じようにスコアによってレベル分けされる方式で、合格・不合格はありません。
BJTは「出入国在留管理庁が外国人労働者の日本語能力を証明する基準(※)」として認めているため、自社が求めるレベルに達しているかどうか判断しやすいでしょう。
(※)参照元:出入国在留管理庁(https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyuukokukanri07_00022.html)
J.TEST 実用日本語検定
実用的な日本語能力の評価
J.TESTは日常からビジネスレベルまで幅広いレベルに対応しており、JLPTと違い、細かなレベル分けがされています。特にコミュニケーションの円滑さや業務上の実用性を重視しており、外国人労働者のスキル判断に役立ちます。
試験の特徴と活用方法
ビジネスシーンに限らず、幅広い日本語の使用能力を測定するため、実務レベルの日本語能力を見極めたい場合に活用されています。
日本語能力を採用判断材料として活用するメリットと注意点
日本語能力試験を用いるメリット
- 学習意欲が高い労働者を選定
日本語能力試験を受けることで、日本語学習に意欲を持つ労働者を見極めることができます。資格取得を通じて、日本でのキャリアを積極的に考えている人材を採用しやすくなります。 - レベルに応じた適切な業務割り当て
日本語能力試験のスコアによって、外国人労働者の日本語能力を客観的に判断できるため、業務内容に応じた適切な配置が可能になります。 - 企業の信頼性向上
日本語能力を基準に採用することで、企業内でのコミュニケーションが円滑になり、企業の信頼性や組織の調和が向上します。
日本語能力試験を用いる際の注意点
- 試験結果は一つの指標に過ぎない
日本語能力試験の結果は重要な指標ですが、それだけでは採用の全体像を把握できません。面接や業務シミュレーションを通じて総合的に評価することが重要です。 - ポジションや業務内容に応じた日本語要件の設定
各ポジションに必要な日本語能力を明確に定め、試験結果がどの程度業務に対応できるか検討しましょう。 - 継続的な日本語教育の必要性
採用後も定期的に日本語教育を実施することで、日本語能力の維持や向上が図れ、長期的な戦力化が可能です。
日本語能力以外の評価ポイント
- 技術スキルや専門知識
日本語能力に加え、専門的なスキルや知識が必要な職種においては、技術能力も評価の重要な要素です。 - 異文化理解と適応能力
異文化理解や日本のビジネス慣習に適応できるかも重要です。適応力がある人材は、組織に溶け込みやすく、長期的に活躍できる可能性が高いです。 - チームとの相性
チームメンバーとのコミュニケーションや協調性も大切です。言語スキルに加えて、社風やチームに合った人材を見極めることが必要です。
外国人労働者の日本語能力を向上させる支援について
考えておきたい!入社前後の日本語教育プログラム
入社前の語学研修
多くの企業では、入社前の語学研修プログラムを導入しています。この研修は、日本での業務を始める前に必要な日本語の基礎を身につけるために役立ちます。日本語能力試験(JLPT)のN3〜N2レベルに相当する語彙や文法を学び、基本的なコミュニケーションができるようサポートすることが一般的です。入社前に一定レベルの日本語能力を身につけることで、業務のスムーズな立ち上げが期待できます。
入社後の継続的な日本語教育
入社後の継続的な日本語教育も重要です。企業は業務に合わせた日本語学習の機会を提供し、ビジネス文書や敬語などの実務に即した日本語を習得させます。オンラインや社内の勉強会などを活用し、業務に必要な日本語能力を身につけられるようにすることが、外国人労働者の成長と定着率向上につながるでしょう。
準備しておきたい!社内での日本語サポート体制
メンター制度の導入
日本語が堪能な先輩社員が、外国人労働者の日常業務をサポートする体制を整えることで、実務に役立つ表現や職場のマナーを教えることができます。このメンター制度は、外国人労働者の不安解消やコミュニケーションの円滑化にも大きな効果を期待できます。
日本語学習のためのリソース提供
日本語の教材や学習アプリを提供し、外国人社員が自発的に日本語学習を進められるようにすることも効果的です。日本語文法や語彙が学べる教材や、日本語能力試験対策の参考書などを社内に用意しておくと、社員が自由に活用できます。
オンラインの学習プラットフォームの利用も、忙しい業務の合間に日本語学習を進めるのに便利です。
効果的な日本語教育の実施方法も検討しよう
オンラインとオフラインの併用
オンラインとオフラインを併用した学習体制が効果的です。オンラインの日本語レッスンは、時間や場所に柔軟性があり、通勤時間を削減できるメリットがあります。一方、オフラインの学習は、対面での発音指導や実践的な会話練習に適していて、日本語のニュアンスを理解しやすい環境が整っています。
実務に即したカリキュラムの作成
日報やメールの書き方、電話対応など、具体的な業務場面で必要となる日本語表現を学習することで、即戦力としての能力が高まります。状況に応じた敬語表現なども身につけることで、ビジネスの場面でのコミュニケーションがさらにスムーズになります。
日本語能力を基準とした外国人採用の成功事例
楽天グループの取り組み事例
楽天グループでは、ビジネス職の応募条件のひとつを「ビジネスレベル以上の日本語力を有する方」としています(※1)。日本語能力を評価する特定の試験や検定は指定していないですが、どの職種に配属されても一定のコミュニケーションが取れるレベルが求められているのです。
そんな楽天グループの従業員の国籍比率は、日本人が77.9%、外国人が22.1%(※2)で、プロジェクトやチームを率いる立場として活躍する外国人も多数います。
(※1)参照元:楽天グループ(https://corp.rakuten.co.jp/careers/graduates/recruit_business/)
(※2)参照元:楽天グループ(https://corp.rakuten.co.jp/sustainability/diversity/)2024年11月時点
成功要因の分析
応募条件にビジネスレベル以上の日本語力を求めている楽天グループですが、社内公用語は英語です。日常的に英語を使うことが少ない日本人従業員は、慣れるまでがとても大変。しかし「外国人だけに語学スキルを求めない」ことで、お互いに日本語・英語のどちらでもコミュニケーションが取れるようにしていることが、多国籍な人材が活躍する成功要因といえるのではないでしょうか。
定着率を高めるために工夫したこととは
- モチベーション維持の方法
外国人労働者の日本語学習のモチベーションを維持するため、社内での成果発表会や、日本語能力向上に伴う昇進の機会を設けることが効果的です。さらに、定期的なフィードバックや評価制度も、学習意欲を高める手助けとなります。 - キャリアパスの提供
外国人社員が長期的に働けるよう、キャリアパスを明確にすることが定着率向上に役立ちます。日本語能力が一定レベルに達した際に昇進や役職を提供するなど、キャリア成長のステップを用意しておくと、外国人労働者も自身の成長を実感しやすくなります。
効果的なサポート体制の構築方法
- サポートチームの設置
サポートチームを社内に設置し、外国人社員の教育や相談対応に当たる体制を整えることで、外国人社員の安心感を高められます。人事部門と現場部門の連携を密にし、外国人社員が円滑に職場に馴染めるようサポートを行います。 - 継続的な支援の提供
定期的な研修や日本語勉強会を開催することで、入社後も継続的に日本語学習を支援する体制が求められます。特に業務内容が変更した際や、キャリアのステップアップを目指す外国人社員には、それに応じたスキルや知識を提供することが大切です。
日本語能力に関するよくある質問(FAQ)
- 日本語能力試験のスコアはどのように評価される?
- 日本語能力試験のスコアは、外国人労働者の日本語理解度を客観的に示す指標として役立ちます。N1レベルであれば高度な日本語を理解し、ビジネス場面でも十分に対応できる能力を持つことが証明されます。
スコアの使い方としては、日常会話が中心の業務にはN4~N3レベル、ビジネス文書や会話を含む業務にはN2~N1レベルが目安となります。
- 日本語能力が低い場合の対応策は?
- 日本語能力が不足している場合でも、段階的な学習プログラムを提供することでスキルアップが可能です。最初は日常会話レベルから始め、徐々に業務に必要な表現や敬語を学ぶカリキュラムを設けると良いでしょう。
必要に応じて通訳や翻訳ツールを併用し、コミュニケーションをサポートします。
- 日本語能力向上のために企業ができることは?
- 企業が日本語能力向上のためにできることには、語学研修の実施やメンター制度の導入が挙げられます。オンライン学習リソースの提供や、日常業務に日本語学習の機会を盛り込むことで学習と実務が結びつきやすくなり、日本語能力が向上しやすくなります。
- 日本語能力試験の結果をどのように採用プロセスに反映させる?
- 採用時に日本語能力試験の結果を評価基準の一つとし、ポジションや業務内容に応じた基準を設けると良いでしょう。業務で直接顧客対応を行う職種であればN2以上、社内でのコミュニケーションが中心となる職種ではN3程度が望ましいなど、職務内容に応じた日本語レベルを設定します。
外国人採用における日本語能力の重要性と効果的な評価方法
外国人採用において、日本語能力は業務の円滑化と企業内の連携を保つ上で重要な要素です。日本語能力試験やビジネス日本語テストなどの指標を活用し、適切な日本語レベルを持つ人材を採用することで、企業にとっての即戦力となる人材を確保できます。
入社後も継続的な日本語教育やサポート体制を整えることで、外国人労働者の定着率向上とキャリア成長が期待できます。企業としては、日本語能力を評価するだけでなく、実務に即したサポートと教育を提供し、外国人労働者が安心して働ける環境を構築していくことが今後の課題となるでしょう。