外国人雇用における税金のはなし

外国人雇用における税金の基本知識

外国人にも税務上の義務が課せられますが、租税条約による免税制度を活用することで、適切な税務管理が可能です。
ここでは、外国人労働者を雇用する企業や労働者自身が知っておくべき、日本での税金や社会保険の制度について紹介します。

外国人労働者の税金義務とは?

日本で働く外国人労働者も、日本人同様に所得に応じて税金の支払い義務がありますが、その義務は「居住者」と「非居住者」の分類によって異なります。
外国人が日本国内に住所を有するか、あるいは継続して滞在している期間によって、この区分が決まります。

  • 居住者:1年以上日本に住む、または日本に生活の基盤がある外国人労働者が該当し、日本国内外の所得に対して課税されます。
  • 非居住者:滞在期間が1年未満の外国人労働者が該当し、日本国内で得た所得のみに課税されます。

参照元:国税庁:「No.2875 居住者と非居住者の区分」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2875.htm

居住者と非居住者の税金の違い

居住者の場合の税金

居住者は、日本国内外の所得に対して課税されます。所得税は年間の総所得金額に基づいて算出され、給与所得控除や基礎控除などの各種控除が適用されます。日本国内の所得については、源泉徴収によって毎月の給与から天引きされる仕組みです。また居住者の場合、前年の所得を基準として翌年度に住民税が課せられます。住民税の税率はおおよそ10%で、市区町村が所得の申告をもとに計算・徴収します。

非居住者の場合の税金

非居住者の場合、課税対象は日本国内で得た所得に限定され、所得税率は一律20.42%が適用されます。また、非居住者には基礎控除など一部の控除が適用されないため、留意が必要です。さらに、非居住者は住民税の支払い義務がなく、居住地の自治体に住所を登録しないため、住民税が課されない点が特徴です。

参照元:国税庁「No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2884.htm

所得税と住民税の概要

所得税と住民税の概要について解説します。

所得税の計算方法

所得税は、年間の所得に基づいて課されます。給与所得者の場合、給与総額から給与所得控除を差し引き、さらに基礎控除や配偶者控除が適用された後、税率に基づいて計算されます。
税率は累進課税方式が採用されており、所得が高くなるにつれて税率も上昇する仕組みです。

住民税の計算方法

住民税は、前年度の所得を基準に市区町村が課税します。均等割(おおよそ5,000円)と所得割(おおよそ10%)の二部構成となっており、毎年6月から翌年5月にかけて分割で支払う仕組みです。

税率と控除の違い

所得税は累進課税が適用され、税率は5%から最大45%まで変動します。一方、住民税の税率は一律10%に設定されています。また控除額についても所得税と住民税で適用される範囲や金額が異なるため、注意が必要です。

参照元:総務省「個人住民税」(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_06.html
参照元:国税庁「No.2260 所得税の税率」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

社会保険と税金の違い

外国人労働者が日本で働く場合、社会保険への加入が必要です。
社会保険には、健康保険、厚生年金保険、雇用保険が含まれ、これらは「税金」とは異なり、労働者と企業双方が負担する仕組みです。また、外国人労働者も基本的に日本人と同様の社会保険に加入する義務があり、適用される保険は雇用保険、健康保険、厚生年金となります。適用条件が満たされれば、労働者と企業が保険料を分担することになります。

参照元:日本年金機構「外国人従業員を雇用したときの手続き」(https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/gaikokujinkoyou.html

租税条約と外国人雇用の税務

日本は多くの国と租税条約を締結しており、二重課税の回避を目的とした税務上の措置が取られています。租税条約を活用することで、外国人労働者の税負担が軽減されるケースも多いため、確認が重要です。

租税条約の基本とその重要性

租税条約とは、二国間で同じ所得に対する二重課税を防ぐために締結される協定です。日本で働く外国人労働者の場合、この租税条約を適用することで、日本と母国の両方における税負担が軽減される可能性があります。
日本は約70カ国と租税条約を締結(2023年1月時点)しており、これにより外国人労働者の税負担軽減や所得移転の円滑化が実現されています。ただし、条約の内容や控除・免税の適用範囲は国ごとに異なるため、事前に詳細を確認することが重要です。

参照元:財務省「租税条約の概要」(https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/index.htm#:~:text=等の一覧-,租税条約の概要,モデルとなっている。

租税条約による免税の条件

租税条約の適用により、特定の条件を満たす外国人労働者は、所得税の一部または全額が免除される場合があります。たとえば、短期間の派遣業務や出張で得た給与が母国の税制に基づき課税済みである場合、日本での税負担が免除されることも。
なお、租税条約を適用して免税を受けるには、事前に必要書類を税務署に提出し、承認を得ることが必要です。申請には「租税条約適用届出書」や母国が発行する「居住者証明書」などの提出が求められます。

参照元:国税庁「No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2888.htm

租税条約を活用した節税方法

租税条約を適用することで、外国企業から短期派遣された社員は、一定の条件を満たす場合、所得税が免除されることが多くあります。たとえば、現地での課税が免除される場合、企業にとっても労務管理がより円滑に進められるでしょう。

また租税条約を適用するには、日本の税務署に「租税条約適用届出書」を提出し、母国が発行する「居住者証明書」を添付する必要があります。ただし、租税条約の内容や適用条件は国ごとに異なるため、事前に条約内容を確認し、適切な手続きを行うことが重要です。

外国人雇用時の税金手続きと管理

外国人労働者を雇用する際、企業には源泉徴収や住民税申告など、正確な税金手続きが求められます。また、労働保険の加入も必要です。
ここでは外国人労働者に関する税金手続きとその管理方法について解説します。

源泉所得税の徴収方法

源泉所得税とは、給与支払時に税金を天引きし、会社が国に納める税金を指します。日本で働く外国人労働者も所得税の支払い義務があり、企業は給与から源泉所得税を差し引かなければなりません。これにより、外国人労働者も日本の納税システムに組み込まれ、適切に納税義務を果たすことができます。

なお、源泉所得税の徴収には、労働者が居住者か非居住者かを判定することが必要です。居住者には累進税率が適用される一方、非居住者には原則として20.42%の一律課税が適用されます。企業は毎月の給与支払時に源泉所得税額を計算し、定められた納付期限までに税務署へ納付する義務があります。

参照元:国税庁「No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2884.htm

住民税の申告と支払い

住民税は、前年の所得に基づいて翌年度に課税される地方税です。企業には、毎年給与所得者の住民税額を市区町村に報告する義務があります。外国人労働者の場合、住民登録を行った市区町村が課税を担当します。

住民税は6月から翌年5月までの12ヶ月間で分割して納付される仕組みです。支払い方法としては、企業が給与から天引きする「特別徴収」が基本となります。企業は毎月の給与支払日に住民税を差し引き、指定された納期限内に各市区町村へ納付します。

労働保険との連携

労働保険は、労働者が業務に従事する際に加入が必要な保険制度です。雇用保険や労災保険は外国人労働者にも適用され、労働保険料は税金とは別に、労働者と企業が分担して支払います。

また、外国人労働者も一定の条件を満たす場合には、雇用保険や労災保険への加入が必要です。特に、週20時間以上の労働や31日以上の雇用契約がある場合、雇用保険の加入が義務付けられます

参照リンク:厚生労働省「外国人を雇用する事業主の皆さまへ外国人労働者の雇用保険手続きをお忘れなく!」【PDF】(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/dl/250318.pdf

外国人雇用に関連する助成金と支援制度

外国人労働者を雇用する企業には、助成金や支援制度が提供されています。適切に活用することで、採用コストを軽減し、定着支援や職場環境整備の促進が図れます。

外国人雇用助成金の種類と概要

  • 人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
    この助成金は、外国人労働者のために職場環境を整備する企業に対して支給されます。具体的には、外国語対応のマニュアル作成や多文化理解の研修実施が助成対象です。
  • キャリアアップ助成金(正社員化コース)
    キャリアアップ助成金は、外国人労働者を正社員として登用する企業を支援します。非正規雇用の外国人労働者を正社員に転換する際、賃金改善やキャリア形成支援も助成対象となります。
  • 人材開発支援助成金(各コース)
    この助成金は、外国人労働者の技能向上を目的とした教育訓練の実施に対して支給されます。職業能力開発を通じて即戦力を育成することが可能です。

参照元:厚生労働省「雇用関係助成金一覧」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00057.html

助成金申請の条件と手続き

助成金を受給するには、外国人労働者の雇用契約や労働条件の整備が必要です。さらに、就業規則の見直しや業務マニュアルの多言語化といった、外国人労働者が職場に適応しやすくするための取り組みが条件として求められる場合があります。

申請手続きのステップガイド

助成金申請には、計画書の提出や受給後の報告義務が伴います。特に正確な書類の作成や期限の遵守が求められ、必要に応じて専門家に相談することも検討するとよいでしょう。

  • 要件確認
    助成金対象要件を確認し、受給可能かを判断します。
  • 書類準備
    申請書や雇用契約書、就業規則など必要書類を整えます。
  • 申請書の提出
    管轄の労働局に書類を提出します。
  • 審査と結果通知
    申請内容が審査され、助成金受給の可否が通知されます。

助成金申請には、計画書の提出や受給後の報告義務が伴います。特に正確な書類の作成や期限の遵守が求められ、必要に応じて専門家に相談することも検討するとよいでしょう。

外国人雇用における税金の注意点

外国人雇用に際して、企業には税務申告や手続きの義務があります。また、税金未納のリスクを回避し、正確に税金を管理することが求められます。

雇用主の税務責任と義務

外国人労働者の給与については、企業が源泉徴収を行い、税務署へ納付する義務があります。また、住民税や社会保険料についても、企業が納付手続きを担います。

外国人労働者を雇用する際、税務手続きを適切に行わない場合、罰則の対象となる可能性があり、企業の信頼を損なうリスクも伴います。そのため、法令を遵守し、正確な税務管理を行うことが不可欠です。

税金未納のリスクと影響

外国人労働者の税金を企業が適切に納付しない場合、企業は延滞税や過少申告加算税が科される可能性があります。また、企業の信用が低下し、将来的な雇用や取引に悪影響を及ぼすことも考えられます。
税金の未納は、企業の財務面だけでなく、労働者の生活にも影響を与えるため適切な税務管理体制を整え、未納が発生しないように管理することが重要です。

退職・帰国時の税金対応

外国人労働者が退職する際、退職所得にかかる税金手続きが必要です。また、住民税の精算や未納分の処理を行い、帰国後の問題を避けるための準備が重要となります。

そのため、外国人労働者が帰国する際には、日本で発生した所得税や住民税の支払いが完了していることが求められます。未納がある場合は、帰国前に精算を完了しておくことが必要です。

外国人労働者の税金管理のポイント

調整や住民税の納付スケジュールの確認が必要です。チェックリストを活用し、正確な税務管理に努めましょう。

さらに、外国人労働者にとって税金や保険制度は複雑な場合が多いため、英語や母国語での説明資料を用意したり、社内通訳者を配置したりするなど、税務に関する情報提供を充実させることが重要です。これにより、コミュニケーションを円滑に進めることが期待できます。

外国人雇用における税金のFAQ

外国人雇用に関する税金の基本や申請手続きをQ&A形式で解説します。

外国人労働者を雇用する際の税金の基本は?
外国人労働者も日本人と同様に所得税と住民税が課せられます。所得税は給与から源泉徴収され、住民税は翌年度に前年の所得に基づいて課税されます。
居住者と非居住者の判定基準は?
外国人が日本に1年以上滞在する場合、居住者とされ、国内外の所得に課税されます。1年未満の滞在者は非居住者とされ、日本国内の所得のみ課税されます。
租税条約を利用する方法は?
租税条約を利用する方法は?
租税条約は二重課税を防ぐための協定です。適用するには、「租税条約適用届出書」を税務署に提出し、免税または軽減を受けられる場合があります。
参照元:国税庁「No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2888.htm
助成金の申請手続きで注意すべき点は?
助成金申請には、計画書や必要書類の提出、報告義務が伴います。書類の正確な記入や期限の遵守を徹底しましょう。
税金未納時の企業の対応方法は?
税金が未納の場合、延滞税が発生し、企業の信用も低下します。未納が発生しないよう適切な管理体制を整え、万一未納が発生した場合は迅速に納付しましょう。
まとめ

外国人雇用における税金を正しく管理

外国人労働者を雇用する際には、税務管理、社会保険の加入、助成金の活用など、法的手続きを正しく行うことが欠かせません。税務管理が適切でない場合、企業の信用や財務に悪影響を及ぼすリスクがあるため、外国人雇用特有の税務管理ポイントを押さえておくことが重要です。たとえば、外国人労働者の滞在期間や生活状況を考慮して「居住者」「非居住者」の区分を判定し、適切な税率や免税措置を適用する必要があります。
また、給与からの源泉徴収や住民税を正確に計算し、期限内に納付することが大切です。母国との租税条約がある場合は、二重課税を防ぐ手続きも行いましょう。
さらに、人材確保支援助成金やキャリアアップ助成金などを活用することで、企業は税負担の軽減や職場環境の整備が可能になります。税務手続きや社会保険制度は外国人にとって難解であるため、英語や母国語での説明資料や税務担当者の配置が必要です。
英語や母国語での説明資料の提供や、税務に詳しい社内担当者を設置するなど、外国人労働者が安心して働ける環境を整備しましょう。